連続ブログ小説『しんおん』~第1週「思い出の君」<第1回>~

連続ブログ小説『しんおん』~第1週「思い出の君」<第1回>~

連続ブログ小説
『しんおん』

第1週「思い出の君」<第1回>

 

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鼻を触る。熱をもったように熱い。きっと真っ赤だ。彼女にそれを悟られないよう、風間哲也(かざまてつや)は咄嗟に後ろを向いた。黒板が目の前にある。日常の風景が、心臓の鼓動に合わせてうねりだす。

放課後の学校に人気(ひとけ)はない。遠くから聞こえる運動部のかけ声が、どこか違う世界の音のように聞こえる。クラスメイトからの告白は、日常の世界を別世界へ変化させた。

哲也の背中に、満永さくら(みつながさくら)が話しかける。

「ダメかな?」

哲也はゆるみそうな顔を無理やり引き締め、ゆっくりと振り返った。

夕日に照らされたさくらは、夕日とは違う赤みで頬を染め、哲也を見つめていた。さくらは、哲也の胸元ぐらいまでの身長しかない。自然と上目遣いになる。潤んだ瞳で見つめられると、おもわず抱きしめてしまいそうになった。

女の子の体は華奢だから、あまり力をこめないように。そして首に手を回し、唇を近づけ……いやいや、さすがにそれはまずい。歯は朝、磨いただけ。昼に焼肉弁当を食べている。絶対に口が臭い。相手にも準備が必要だ。強引にやって、もし気が変わられたら……

「哲也くん。返事を聞かせてほしいな」
「お、おお」

さくらの声に、哲也は正気に戻る。そうだ。まださくらの告白に返事をしていなかった。

でも、答えはとっくに決まっている。女子からの告白に、「よし、付き合おう!」と即答するのが恥ずかしくて、先延ばしにしているだけだった。本当は嬉しくて嬉しくてたまらない。嬉しさのあまり心臓が爆発しそうだった。しかし、軽い男と思われたくない。

哲也は、ごほんと慣れない咳ばらいをし、鼻を触りながら、低い声で聞く。

「俺でいいのか?」
「うん」

大きくうなずくさくら。整えられた前髪が揺れる。

哲也は、告白された高揚感から、普段なら聞けないことを口走る。

「お、俺の……どこがいいんだ?」
「自分の気持ちを隠そうとして、鼻を触るところかな」
「え?」

哲也は慌てて鼻を手で隠す。それを見て、さくらは無邪気に微笑んだ。

「告白したときね、哲也くん、すごく嬉しそうだった。あ、同じ気持ちなんだってすぐにわかったよ」
「なんだ……バレバレだったのか」
「いいの。そういう恥ずかしがり屋なところも好きだから」

さくらは哲也の右手を両手で包み込んだ。

「でも、ちゃんと答えてほしい。言葉にしないと、気持ちは伝わらないから」

そして、ぐっと顔を近づけてきたさくらは、5分前と同じ言葉を口にする。

「わたしと、付き合ってくれませんか?」

照れと嬉しさで体が硬直する。でも、もうはぐらかすことはできない。それこそ男じゃない。

哲也は古いロボットのような固い動きで手をあげ、「俺もさくらのことが好きだった」と伝えた。まるで選手宣誓のような仕草がおもしろかったのか、さくらは笑った。声をあげて笑ったあと、哲也を抱きしめた。

それ、俺がやりたかったやつ……

哲也はそう思いながら、さくらの温もりに身を任せた。

 

 

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